【 沙藤一樹 】◆◇◆プロフィール◆◇◆名前 / 沙藤 一樹(さとう・かずき) 出生 / 1974年兵庫県生まれ。 受賞 / 『D-ブリッジ・テープ』で日本ホラー小説大賞短編賞受賞。 略歴 / 早稲田大学商学部除籍。 ■□■D-ブリッジ・テープ ■□■ ■近未来、ゴミに溢れた横浜ベイブリッジで少年の死体と一本のカセットテープが発見された。いま、再開発計画に予算を落とそうと、会議室に集まる人々の前でそのテープが再生されようとしていた。耳障りな雑音に続いて、犬に似た息遣いと少年の声。会議室で大人たちの空虚な会話が続くなか、テープには彼の凄絶な告白が…。弱冠23歳の著者が巨大な嘘を告発する新黙示録。第4回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。 ■ ■22-20sの感想■ ■今回は語り口調で感想を書いてみる(笑) 短いくせに、すごく深い。この人は天才だと思うよ。 ある少年が五歳のときに横浜のゴミ捨て場の中に捨てられるんだ。 あたり一面ゴミだらけの場所に。 その少年はまだ小さくて自分が捨てられたと気づくのに随分かかった。 でも、ようやく気づいて、ゴミの中にあった廃車の車の中で生活するのだけど、 すごいんだ。 生き様が。 いろんなことが起きる。 足をトラックに轢かれてなくなったり。 少し年上の目の見えない少女も捨てられていたり。 その少女と一緒に生活したり。 へんな若者に襲われたり。 描写がすごい。 そしてすごい痛い。 文学とは狂気であって凶器なんだって思ったよ。切実に。 こんなにも魂を揺さぶる叫びははじめて聞いたし、 こんなにも健気な闘いもはじめて。 こんなに美しい愛もあるのか? こんなにも残酷な運命があるのか? こんなにも哀しい諦めがあるのか? こんなにも激しい勇気があるのか? こんなにも暖かい心があるのか?って感じで、すごく感動した。 いや、違うな、衝撃をうけたよ。 俺がこの事柄をきちんと伝えるには三千枚の原稿用紙があっても無理だって思った(笑) でもこの作者は二百枚たらずでそれを表現しているんだ。 とにかくすごい。オススメ。(オススメ度 ★★★★☆)■ Dーブリッジ・テープ ■□■不思議じゃない国のアリス ■□■ ■熊の置物を赤い紐で引いて立っていた少女アリス。信用金庫に勤める由記子と出会うが、「わたしのこと、おぼえていて」と言い残して死んでしまう…。大人の理不尽な行為により絶望した少年・少女たちを描く5つの短編を収録。 少年少女はバスにゆられてどこへ連れて行かれるのでしょうか。自分では運転できない年頃なので、大人の運転に身をゆだねるしかないのでしょうか。ところでこの本、バスの運転手が沙藤一樹でなければ、きっと旅は快適だったでしょうに。――乙一■ ■22-20sの感想■ ■乙一絶賛!のこの本。 この作者は、小説かマンガか映画か、とにかくフィクションをものすごい数、読んだり見たりしていると思う。 どの作品にも既視感があった。 それでも『空中庭園』のネット上の会話は、かつてないほどリアル(ネットを上手に書いた小説を読んだことがないし、ラストにはやられました。) 表題作に登場するアリスの、理路整然としたトボケっぷりは味わい深いし、魅力的。 「新感覚」との煽り文句に納得。 筋が新しいのじゃなく、醸し出すちょっとのものが新しい。 収められた6作のうち3作まで途中でオチが見えたのに、それでも楽しい、というのは。。。 なんだか普通じゃない。 あと、この作家のキーワードは「少年少女」だと思う。 現代の社会に生きる子供の不安や恐怖・孤独を怖いくらい突く。 作家への若い世代の支持が高いのは、 その作品が主張するメッセージがまさにリアルタイムに共存するから。 (オススメ度 ★★★★☆)■ 不思議じゃない国のアリス |